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◆ 始祖鳥 (しそちょう)は鳥の先祖なのか? ◆

 鳥の祖先(そせん)始祖鳥(しそちょう)であると学校で習った方は多いと思いますが、実はそうではありません。

 1861年、南ドイツ・バイエルン地方のソルンホーフェンという石切り場で、初めて始祖鳥の化石が発見されました(前年には始祖鳥の一枚の羽毛の化石が発見されていました)。ダーウインの「種の起源(しゅのきげん)発表の2年後のことでした。

 化石で発見された始祖鳥が生息していたと見られるのは、約1億5千万年前です。始祖鳥はおおかたハ虫類から鳥への進化途上(とじょう)の、より鳥類に近い生物であろうとされてきました。神話(しんわ)とさえいえるほどに、始祖鳥の鳥の先祖としての進化的位置(しんかてきいち)はゆるぎ無いものでした。 しかし、その絶対的とも思われた地位も次第(しだい)にあやうくなってきました。次々に鳥類を思わせるいろいろな化石が発見され、そのたびに学者たちは互いの理論と意地(いじ)をぶつけ合いました。

 まず1968年アメリカ・テキサス州で、その始祖鳥より7500万年も古い「原始の鳥・プロトエイビス」の化石が発見されました。プロトエイビスは中空(ちゅうくう)である骨や骨格の特徴(とくちょう)、竜骨突起(りゅうこつとっき)のついた胸骨(きょうきん)など、始祖鳥に比べてはるかに「鳥」に近いものかと思われました。しかし発見者の説にも疑問(ぎもん)が多く、結局は鳥類の進化系統(しんかけいとう)とは別であるとするところに落ちつきました。鳥類であるという条件(じょうけん)として、「羽毛(うもう)を持つ恒温動物(こうおんどうぶつ)である」ということが言われていましたが、これは今では絶対条件(ぜったいじょうけん)とはみなされておらず、羽毛を持つ「鳥類ではない恐竜」もいたことがわかっています

 近年の脊椎動物(せきついどうぶつ)の分類法(ぶんるいほう)では始祖鳥は恐竜類として分類されます。恐竜類には恐竜と鳥があり、一応始祖鳥は「鳥」に分類されていますが、原生鳥類(げんせいちょうるい)の直系(ちょっけい)の祖先ではなく、鳥類とは別に分類されています。


 鳥類と思われた化石の発見ではその後、1992年にはモンゴルで「モノニクス」の化石が発見され、中国遼寧省からは「遼寧鳥」「三塔中国鳥」「孔子鳥」などの化石が、始祖鳥と同じ白亜紀の地層から発見されました。これらも今の鳥に近い特徴を備えていると思われました。2005年には、中国内モンゴル自治区で、白亜紀前期(約1億2500万年前)の地層から、くちばしに歯のない鳥の化石が見つかりました。これが本物なら現在の鳥類の仲間としては最古の化石です。ただし中国から発見されるこの類の化石は、信憑性に問題があるようです。中国には闇の化石工場があり「作られた化石」である事が発覚したり、発表にねつ造があった事が何度もあるからです。やけに中国から羽のある「鳥類」の化石が見つかるのですが、そのような理由から、このあたりの検証を誤ると鳥類の起源問題が振り回される危険もあります。モノニクスについては、鳥ではなく足の速い獣脚類だったと見られています。

 さてそれでは鳥類の起源(きげん)、すなわちペンギンの大先祖様は何なのか?これについてはまだまだ研究中なのですが、現段階(げんだんかい)では三つの可能性が考えられ、3)が有力(ゆうりょく)と見られています。少なくとも鳥の先祖は始祖鳥ではなかったわけです。

  1. 三畳紀(さんじょうき:2億5000~2億1000年前)に生息した四足歩行をして樹上性だった小型の原始的祖竜(そりゅう)
  2. 恐竜と幹(みき)が同じである二足歩行(にそくほこう)をしていた地上性の槽歯類(そうしるい)
    (槽歯類:古生代末((こせいだいすえ)から中生代前期(ちゅうせいだいぜんき:2億3000万年~2億年前)にかけて繁栄(はんえい)したハ虫類)
  3. さらに新しい時代の獣脚類(じゅうきゃくるい)の恐竜
    (獣脚類:二足歩行をする恐竜類)

 また、鳥類がどのようにして飛べるようになったかについては、二つの可能性が考えられています。

  1. 地上を走り回っているうちに飛べるようになった。
  2. 木の上から飛びおりて滑空(かっくう)するうちに飛翔力(ひしょうりょく)を発達させた。
1)は主に古生物学者(こせいぶつがくしゃ)が、2)は主に鳥類学者が支持(しじ)していますが、2)の方が自然で有力と思われます。というより1)には無理があるという感じですね。


 鳥類の進化に関しては「羽」の起源問題(きげんもんだい)も大きな課題です。飛ぶためのからだの構造(こうぞう)も重要ですが、空力学(くうりきがく)にかなった羽がどのように獲得(かくとく)されたのか、このあたりは全くわかっていません。ダーウィン進化論では進化はランダムに起こり、たまたますぐれた資質(ししつ)に変化したモノが生き残るという考えかたなので、飛ぶために最適(さいてき)な身体と羽をあわせもった鳥類が突然に偶然(ぐうぜん)できあがった、ということになってしまいます。将来(しょうらい)の進化にそなえて、少しずつ役に立つ部品を取りそろえていくという意図(いと)は進化論上はありえないからです。たまたま骨が中空の鳥類の祖先が突然変異(とつぜんへんい)であられても、たまたま飛翔(ひしょう)に最適(さいてき)な羽を持った鳥類の祖先があられても、どちらか一方では役には立たず、飛ぶためのすべての要素(ようそ)がそろって初めて飛べるのです。

 鳥類は骨が中空でもろく羽や皮はくさってしまいますから化石に残りにくく、これから先も新たな重要な発見がなされるというのも、かなり困難なことなのではないかと思われます。
  生物の進化では、しばしば収斂進化(しゅうれんしんか)(平行進化(へいこうしんか))という現象(げんしょう)が見られます。まったくことなる種でも、同じような生態的地位(せいたいてきちい:ニッチ)、すなわち同じような生活環境(せいかつかんきょう)におかれた場合に、同じような進化の方向をたどると言うものです。なので化石上の形態(けいたい)が似て(にて)いるからといって近縁種(きんえんしゅ)や系統(けいとう)が同じであるというあやまった判断もなされやすいのです。近代ではDNA分析(ぶんせき)による系統探索(けいとうたんさく)でそのあたりのあやまりも正される方向のようです。


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