ペンギンは海鳥であり、しかも空を飛べない。
ニワトリのように、普通は飛べないが、たまに飛ぶやつがいるのとは違う。
ヤンバルクイナやダチョウなどのように、まったく空は飛べない。
しかし、あくまで空中は飛べないのだ。
ひとたびペンギンが水中を泳ぐ姿を見れば、やっぱりペンギンは飛んでいる、としか言えない。
い、いや、自分は研究者ではないので、水族館で軽く泳いでいるのを見たくらいで、あくまで関連書(かんれんしょ)などからの受け売りや、テレビの特集で見ただけである。
でも、映像を見ただけでも、明らかに飛んでいる。
かつてペンギンを発見した頃の北半球人が、ペンギンを魚の一種と思ってしまっても、しかたのない点がある。
海に潜って魚をとる海鳥の翼(つばさ)は、本来は空中を飛ぶための器官(きかん)である。
ペンギンは空中を飛ぶことをやめて、翼を一枚のヒレにした(フリッパー)。
ペンギンは他の海鳥とは違い、そのヒレを海中を飛ぶために機能(きのう)を特化(とっか)させて、水を切ると同時にスクリューの役割も果たしている。
空中を飛ぶ鳥は、骨の密度(みつど)を下げて軽くし、出来るだけ体を軽くしている。体に比べて羽も大きい。水中を飛ぶペンギンは、体が軽いというのは浮いてしまってぐあいが悪い。そのためペンギンは鳥にもかかわらず、骨はぎっしり詰まっていて密度が高い。
ペンギンの翼であるフリッパーが、体に比べて小さいのは、空中よりはるかに抵抗(ていこう)の大きい水中で飛ぶためには、理想的であり、体の形もみごとな紡錘形(ぼうすいけい)をしている。
(紡錘形とは、ラグビーボールのような形をいう)
ペンギンの体の形を再現して実験すると、流体力学(りゅうたいりきがく)的に水中での抵抗は理想的に低くなる。
水中での速度は時速(じそく)7~8Km、時には12km以上にもなる。
日本のペンギン研究の草分け(くさわけ)である、故・青柳昌宏博士は、ペンギンが水中ではなく空中を飛ぶケースが3つあると書いている。
イルカと同じく、空気中の酸素(さんそ)によって呼吸(こきゅう)するペンギンも高速(こうそく)遊泳中は「イルカ泳ぎ」をする。(イルカ泳ぎは「ポーポイジング(porpoising)」と呼ばれます。)
海面上に飛び上がったり潜ったりしながら泳ぐ方法である。
イルカやペンギンは、なぜあのような泳ぎ方をするかというと、スピードを落とさずに「息継ぎ」をするためと、捕食者がいないかどうかを探ったりしていると見られる。
「泳ぐ」場合、完全に体を水面下に沈める方法と、体の一部を水面上に出す泳ぎ方が考えられる。
流体力学(りゅうたいりきがく)上、後者の泳ぎ方が一番効率(こうりつ)が悪い。
体の一部を水面上に出して泳ぐ、すなわち水と空気のさかい目に身体があると、その水面上の後方に渦(うず)が出来る。
その渦には、前方に泳ごうとする体を後ろ向きに引っぱる力が生まれる。
それゆえ、完全に潜るか、完全に空中に出る方がロスが少ない。
頭を水面に出して息継ぎをするより、水面上に飛び上がって息継ぎをする方が、スピードを落とさずに、しかも最小のエネルギー消費(しょうひ)で泳いでいける、と一般には言われるが、最近は効率が疑問視されている。
捕食者(ほしょくしゃ)から逃げるときも、ポーポイジングで泳いで逃げたりする。
一時期水泳の平泳ぎで、完全に体が水面下に沈んではいけないというルールになったのは、このためだろう。きっかけは日本人選手がその泳法(えいほう)で勝ち続けたのが、欧米には気に入らなかったからだが・・・。