集団繁殖(しゅうだんはんしょく)をする鳥類の中には、ヒナがある程度育つと、それぞれの巣から離れて、ヒナだけの生育(せいいく)集団「クレイシ」を作るものがある。
全鳥類約9000種のうち、10種ほどに見られる形態(けいたい)である。
面白いことに、それらはいずれも、 水に縁のある生活をしている鳥類で、ペンギン、アジサシ、フラミンゴの仲間である。
ほとんどのペンギンでは、育雛(いくすう)期間は、二つの段階から成っている。
どちらかの親に常に守られている「警護期(けいごき)」と、ヒナだけがコロニーに残されてクレイシを形成する「クレイシ期」である。
クレイシ期には、両方の親が採餌(さいじ)に出かけている。
規模(きぼ)の大小や形態の差はあるが、クレイシを作るのは、エンペラー、アデリー、イワトビ、キガシラ属たちで、巣穴(すあな)で繁殖する形態のコガタやフンボルト属は、まったくクレイシを作らない。(より気温の高い温帯(おんたい)に住むイワトビ属の仲間もクレイシは作らない)
クレイシについて、最も良く研究されているアデリーペンギンの場合で言うと、クレイシには、大きく3つの機能(きのう)があると見られる。
クレイシ期になると、ヒナはヒナだけで集団に固まっているが、給餌(きゅうじ)に戻ってきた親と子はどうやってお互いを見分けるのか?
親は海からコロニーに戻ってくると、ヒナを呼ぶ鳴き声を発する。
それに、その親鳥のヒナが反応して給餌が成立する。(直接給餌)
クレイシ期が進むと、親は給餌の際、ヒナをクレイシから連れ出してエサを与える。(連れ出し給餌)
さらに時期が進むと、親はクレイシの外からヒナを呼び出して、給餌するようになる。(呼び出し給餌)
この場合でもヒナをまちがえることはない。
他のヒナには決して給餌することはなく、親を失ったヒナは餓死(がし)する運命にある。
呼び出し給餌は、次第にその距離が長くなり、海岸にまで呼び出して海に慣(な)れさせる種もある。
連れ出し給餌の際、通常その距離は数十メートルになり、ヒナは一人でクレイシを離れ、親の呼ぶ場所まで歩いていき、再び一人でクレイシまで戻る。
天敵(てんてき)におそわれる危険が、最も大きい時である。
戻るとき、そばについてガードしている個体がいることがある。
青柳昌宏博士の観察では、非繁殖個体(ひ・はんしょくこたい)がヒナの用心棒(ようじんぼう)になっているとの説を発表したが、矛盾(むじゅん)する観察も多く、否定意見が多い。
クレイシ期も最後になると、親は給餌せず戻らなくなる。
換羽(かんう)を終えたヒナは、空腹にたえかねて海へとエサとりに出て、巣立ちとなる。